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夜のステージ |
「なっとくいかない……」
「いつもいつも勝てるなら、苦労はしないよ」 憮然とした表情でジョッキをあおる女と、どこか飄々とした表情で静かにジョッキを傾ける男。決して広いとは言えないその居酒屋の中スーツ姿で並ぶ二人は、地味な店のたたずまいに完全に埋没していた。 「あのしんさいん、目がくさってるんですよぉ、きっと」 「はは、律子が言うならそうかもしれないな」 「なんですか、ばかにしてんですか」 ただ、二人の経歴は、見た目ほど地味ではない。一世を風靡した元トップアイドルと、元プロデューサー。 「んまぁ、千早の調子がいつもよりちょっとわるかったのは、私もみとめざるをえないですけど……すいません、生ちゅうもいっぱい!」 「はーい」 「……あんまり飲みすぎるなよ」 そして今は、超売れっ子アイドルのプロデューサーと、その社長。今まさに店のBGMに流れている大ヒット曲を歌うアイドルに深くかかわる二人がこんなところで飲んでいるなんて、周りの酔客は知る由もない。 「だぁいじょうぶですよ。まだよいは浅いです。宵だけに。あはははははー」 「おいおい……」 苦笑いを浮かべながらも、ジョッキを握る横顔はどこか嬉しそうでもある。いや、嬉しそうというよりも、懐かしそう、という方が正しいかもしれない。 「だいたい、ちはやもちはやですよ。オーディションにまけたってのに、『私のしょうじんがたりないのね』なんて、けろっとした顔で……もうちょっとくらい、感情をあらわにしたって……」 「その辺は、二人でデュオを組んでた頃と変わらないじゃないか」 つと、遠くを見るような眼になって、思い出したように冷奴に箸をのばす。食べるでもなく豆腐の表面を撫でる箸先を、胡乱なまなざしで彼女が見つめていた。 「そうなんですよね……あのころからあの子、そうだった……あたしのあいかたにはもったいないくらいで……ちょっと社長、ぎょうぎがわるいですよ?」 「え? あ、ああ」 一瞬箸を引っ込めて、改めて冷奴を取り、口へと運ぶ。その所作をぼんやり眺めている彼女の目元は、妙に艶めかしい。一瞬目が合い、ドキッとした表情を浮かべる。 「なんですかぁ。いやらしいめでみて。せくはらですか?」 「そんな訳ないだろ。まったく、冤罪もいいところだ」 わざと怒ったような表情を浮かべる彼の頬が赤いのは、酔いのせいだけではなかったかもしれない。それに気付いているのかいないのか、彼女が彼の顔を覗き込む。 「ほんとですか? しゃちょうはゆだんもすきもないからなあ……あ、なまちゅうもういっぱい」 間近に迫っていた彼女の顔がすっと去り、彼がそっと息をつく。赤い顔がさらに赤くなっていたことには触れないのが、優しさというものだろう。 「おいおい、まだ呑むのか?」 「らいじょうぶですって。びーるなんてみずですから。お、しゃちょうもじょっきからじゃないですぁ。なまちゅうもういっぱい!」 一杯、また一杯とジョッキが空いていき、それとともに酔客も一人、また一人と帰路について周りの喧騒も引いていく。暖簾が下げられる頃には、店内に残っている客は二人だけになっていた。 「ほら律子、そろそろ閉店だ。帰るぞ」 「ん……ぷろでゅーさー……」 むにゃむにゃと言葉にならない言葉を口の中で転がす彼女を見て、お手上げとばかりに首を横に振る。厨房から恰幅のいい男がジョッキ片手に近づいてきた。 「随分と呑んだね」 「いや、お恥ずかしい」 「まるで昔のアンタそっくりだ」 笑いながらジョッキの中身を飲み干す男を前に、彼がバツの悪そうな笑みを浮かべる。 「て、店長……」 「あはは、冗談冗談。で、お姫さまは大丈夫なのかい?」 「死にはしませんよ。もっとも、明日は死にそうな顔になってそうですが」 ちげぇねぇ、と店長も笑う。つられるように笑った彼が財布を取り出し、お会計を済ませた。さて、と一声発し、再び彼女の肩を揺する。 「ほら、律子。そろそろ行くぞ」 「ぅぅん……ぷろでゅー……さぁ……」 しょうがないなぁ……と書かれた顔で、彼がため息をつく。苦笑いとともにもう一度、彼女の肩に手をかけた。 「ほら律子、何やってるんだ。千早もファンも、ステージで待ってるんだぞ。早く立たないか」 「え……あ、はい、すい……ません」 ようやくゆらゆらと立ち上がった彼女の手を取って、自分の肩につかまらせる。肩に担がれた彼女の足取りは相変わらずおぼつかないけれど、何とか歩けそうなことを確認して、店の出口へと向かう。 「ご馳走様、お騒がせしました」 「いやいや、またよろしく」 店長の声に送られて二人、店の外へと出た。人影もまばらな路地に、二人の背中が溶けていく。 「それじゃ……あぷろでゅーさー……み……ててくださ……い……」 「おう、いいステージ、期待してるぞ」 「まかせ……て……くだ……」 ――彼女たちのステージは、これからも続いていく。
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管理人:霧島義隆 |
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元765プロ所属、今は律子と一緒に独立してとあるデレマス事務所「律子ぺろぺろの会」代表。気付いたら個人でもS3、事務所もs3。他、アケマス・アイマス2・アイモバ・ミリマスでもアイドルマスターの称号を取ったので自称5冠。ただしミリマスは引退済み。
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