この辺のお話の続きと思いねぇ。
(それにしても……)
隣に並んで歩く美希を見ていると、改めて彼女の持つ「華」に気付かされる。野暮ったい伊達眼鏡と、カラースプレーで偽装した髪の毛、どこから見てもいつもの美希とは違うのに、それでもにじみ出るものは隠せないのか、さっきからちらちらとこっちを見ている人が何人もいる。
(どう考えても、釣り合わないわよね……)
変装するまでもなく、街中を歩いていても声をかけられることなんてほとんどない私、変装していてもなお、道行く人が振り返る美希。そもそも、私がアイドルデビューするなんてこと自体、想像すらしていなかったわけだけど。
オフの日までこの悩みが頭をもたげてくるなんて……まったく、因果な話だ。そんなことを考えていると、ふいに袖を引かれた。
「ん? どうかした?」
袖を引いたのは、もちろん美希。なんだか、妙に不安そうな顔をしている。
「律子さん、ミキと歩いてて、楽しくない?」
「え? どうして?」
「だって、さっきから律子さん、なんだかずっと暗い顔してるから……」
そんな風に、妙に寂しそうに言う美希を見て少し反省する。そうだ、せっかくのオフなんだし、しかも一人でいるわけじゃないんだから、あまり暗い顔ばかりしているのもよくない、か。
「大丈夫、そんなことないわ。ちょっと考え事をしてただけ」
「考え事?」
「さっき、美希がファンに囲まれて大変なことになった、って言ってたじゃない? 私って、デビューしてからもそういう経験がないがないから、ちょっと、その」
悔しい……と言いかけて、口をつぐむ。悔しい? 元々そんなこと望んでいたわけじゃないの? でも美希の話を聞いて、少し羨ましいと思ったのも事実……そんな複雑な心境が、語尾を濁らせた。
「んー。つまり、律子さんももっと目立ちたい、ってこと?」
「えっと……別に、そういうわけじゃ……」
「なぁんだ。そういうことなら大丈夫、ミキに任せて!」
ない、と言おうとしたら、美希がそれをさえぎるように満面の笑みを浮かべて胸を張った。
「ま、任せるって、何を?」
「律子さんって素材はいいから、ちゃんと磨けば光るよ、ミキが保証する!」
「い、いや、えっと……」
あ、あれ? なんだか話が勝手に進んでいるような気がするのは、気のせい?
「それじゃ、律子さん変身大作戦その一、れっつごー! なの!」
「え? あ、ちょ、ちょっと美希、危ないから手、引っ張らないで!」
目を輝かせて私の手を引く美希に、私は一抹の不安を感じずにはいられなかった……
*
「まずは、その眼鏡を何とかするの」
そんなわけで、まず連れてこられたのは眼鏡屋。なんとなく展開が読めたので、機先を制しておくことにする。
「先に言っておくけど、コンタクトにはしないわよ?」
「えー? どうしてー?」
案の定、美希が不満そうな顔をした。やっぱりそうだったのか。
「どうしてって……目の中に物を入れるなんて、そんな恐ろしいことできるわけないじゃない」
「むー。そんなの、やってみないとわからないよ」
そう言って、美希が不満げに頬を膨らませる。まったく……自分がするわけじゃないからって無責任な。
「じゃあ美希、やってみる?」
「ミキは目、悪くないから必要ないの」
そりゃそうだ。美希が今かけているのは変装用の伊達眼鏡。美希の目が悪いなんて話は聞いたことがない。
「ほら、カラコンとかあるじゃない。ああいうのには興味ないの?」
「んー。昔はちょっと興味あったけど、今は別に。そんなことしなくてもミキ、じゅーぶんいけてるし」
「あ、そう」
むぅ。こうもあっけらかんと言われると、嫌味にも聞こえない。まったく、恐ろしい子だ。
「じゃあじゃあせめて、その野暮ったいフレームを何とかしようよ。それだけでも結構、雰囲気変わると思うな」
「野暮ったくて悪かったわね」
「ぅー。そんな怖い顔、して欲しくないの……」
「う……ごめん……」
どうも美希と話をしていると調子が狂う。これがプロデューサー相手だと多少邪険に扱っても問題はないのだけれど……。
「じゃあさっそく、色々なフレームを試してみるの!」
さっき泣いたカラスが……なんて言葉がふと頭をよぎる。ほんと、表情豊かというか、なんというか……でも、こういうところが美希の魅力なんだろうなぁと、改めて感じずにはいられなかった。