霧島工房 アイマス同人界の隅っこで蠢くピコ手改めフェム手サークル
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驟雨

「はぁ……はァ……ひ、酷い目にあった……」
「いきなりこの雨はないよな……」
 油断していた。そりゃそうだろう。朝には雲ひとつない青空が広がっていたのだから。天気予報を見なかったお前が悪い? それに関しては一理なしとはいえないが、それにしてもこの雨はない。
 律子と二人、事務所まであと100mあるかないかというところまで来たところでいきなり降り出した雨、それももう、まさにバケツをひっくり返したようなという形容がぴったりとくる雨が一瞬に降り出してきたものだからたまったものじゃない。律子と二人、事務所まで転がり込んだ頃には二人とも完全にぬれねずみになっていた。
「と、とりあえず着替えた方がいい……」
 いまだ上がったままの息を整えるまでもなく、律子にそう告げる。いくら夏場とはいえ、濡れたままでは風邪を引きかねない。この時期に風邪なんかひかれた日には、監督不行き届きというありがたい汚名を頂くことにもなりかねない。
「そ、そうですね……着替え、あったかなぁ……どうしたんですか?」
 ……ドキッとした。雨に濡れた律子のその姿に。
 十分に水を吸ったシャツは律子の上半身に張り付いて、その下のブラジャーが見事に透けて見えている。前髪が額にはりつき、トレードマークのお下げからしたたる雨水までが、妙に色っぽく見えた。
「い、いや、なんでもない。とにかく早く着替えた方がいい。風邪でもひいたらやっかいだからな」
 慌ててそうごまかす。そらした目が不自然に映らないようにと、ポケットに手を突っ込んでハンカチを探しているような素振りをしている自分が、なんとも情けない。
「そうですね。プロデューサーも随分濡れてるみたいだから、早く拭いた方がいいですよ? 着替えとかはあります?」
 だというのに、律子はなおその場から動こうとしない。いい加減自分の無防備な姿に気づいてもらいたいものだが、安心しきっているのかまるで頓着する様子がない。心を許されていると考えればありがたいものだが、単純に気づいていないだけなら、気づいた時の反応が怖いというのが正直なところだ。
「俺のことはいいから。大丈夫、こう見えても頑丈に出来てるし、それに俺馬鹿だからそう簡単に風邪なんかひかないよ」
「何言ってるんですか、そんなの迷信ですよ。馬鹿だって風邪はひくんですから」
 心配してくれるのはありがたい、ありがたいが、今の俺の望みはただ、律子に早く着替えてきて欲しい、それだけだった。
「そんなこと言ってると律子こそ風邪をひくぞ。だから早く着替えて来い」
「わ、わかりましたよ……」
 少し不満げな表情で、それでもようやく律子が更衣室へと向かった。その背中に透けて見えるブラジャーの紐が、妙に艶かしく映る。
(……何を考えてるんだ、俺は……)
 更衣室に律子が消えたのを見て、やっと息がつけた。雨で体が冷え切っているはずなのに、妙に顔が火照っている。
 今までだって、例えばステージ衣装の律子や水着姿の律子を見て、どきどきしたことがなかったといえば嘘になる。
(不意打ちだったから、か……)
 ただ、そういう時と違って、今日は不意打ちだった。いきなり目の前に突きつけられた強烈な「色気」、それに俺は不覚にもノックアウトされそうになった。プロデューサーとして、担当アイドルをそんな目で見てしまったことに対する自己嫌悪が沸き起こると同時に、改めて律子の魅力を認識して、それがなんだか少しだけうれしかった。

 ちなみに、この後俺が馬鹿ではなかったらしいということが証明されたわけだが、それはまた、別のお話。
【2008/07/30 20:31】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

サプライズパーティー

(そういえば、今日は律子の誕生日か……)
 時計の文字盤に光る、06/23という文字。一年に一度、必ずめぐってくるこの日は、俺の担当するアイドル、秋月律子の誕生日だった。ただし、今日は律子はオフで、俺は他の担当アイドルの仕事で駆けずり回っている、そんな日でもある。
 折角の誕生日を祝ってやれないのは心残りではあるが、これも仕事、やむを得ない。とはいえ……割り切れないものも、内心ある。

「お疲れ様でーす」
「お疲れ様です、プロデューサーさん。遅かったですね」
「ええ。ちょっと打ち合わせが長引いちまいまして」
 『16時帰社予定』と書かれたホワイトボードをチラッと見て、事務員の小鳥さんがで迎えてくれた。ちなみに時計は五時半を指している。一時間半を「ちょっと」というのかどうかは微妙なところだ。そんな俺を見て、小鳥さんが少し眉をひそめる。
「駄目じゃないですか。ちゃんと時間どおりに帰ってこないと」
「え? ああ、すいません……」
 何故か小鳥さんに怒られた。この業界……にかぎったことではないかもしれないが、打ち合わせが延びて遅くなるのはよくある話、今までだって何度もあったことなのに、どうして今日に限って? 戸惑う俺に、小鳥さんが小さくため息をついた。
「まあ、お仕事ならしょうがないですけど。会議室にお客様が待ってらっしゃるので、早く行ってきてください」
「お客?」
 はて? 誰だろう。今日は特に来客予定もなかったはずだが……というか、俺のこの後の仕事は?
いろいろ思うところはあるが……小鳥さんの無言の圧力に負けて、足を会議室へと向ける。
「失礼します」
「プロデューサー?」
「……律子?」
 会議室のドアの向こう側、そこで俺を待っていたのは誰であろう律子、その人だった。しかも、普段見慣れた格好、青のストライプのシャツ姿じゃなく、随分とこじゃれた格好で。よく見るとさりげなくイアリングがしてあったり、軽くメイクまで施されているように見えるのだが……そしてなにより。
「どうしたんだ? その格好は……」
 トレードマークの一つ、お下げが解かれていた。一瞬、赤の他人に見えるくらい印象が違う。これでもう一つのトレードマークであるめがねがなかったら、いよいよもって誰かわからないかもしれない。
 でも、そんな俺の反応に、律子の目が軽くとがった。
「どうしたもなにも、プロデューサーの指示だって聞いたんですけど?」
「はぁ? 俺の指示? いや、そもそも律子は今日オフだったはずじゃ……」
 話が見えない。そう、律子の姿に気をとられて肝心なことを忘れていたが、今日は律子はオフだったはず。そもそもどうして今日、ここにいるんだ?
「それはこっちのセリフですよ。私もオフだと思ってたら、急遽衣装合わせがあるから事務所までって小鳥さんが」
「小鳥さん?」
 待て。待て待て待て。俺はそんな話、聞いていないぞ。とりあえず小鳥さんに確認を……と思ったその時、会議室のドアが開いた。
「はいはいはい、そこまでです、お二人さん」
「小鳥さん?」
 問題の張本人、小鳥さんが満面の笑みで戸口に立っていた。そしてその後ろには、社長の姿も。一体何事だ?
「小鳥さん、これは一体……」
「プロデューサーさん、今日は何の日ですか?」
「え? き、今日ですか?」
 いきなりそんなことを聞かれても、今日だって色々なことがあるわけで、どれのことを言っているのかわからない。そんな俺に業を煮やしたように、小鳥さんが大げさにため息をついた。
「もう! 律子さんの誕生日じゃないですか」
「え? ああ、ええ、それは覚えてましたが……」
 思わず律子の顔を見てしまう。律子は律子で、どう反応したらいいのかわからない、そんな顔をしていた。
「そこで、だ。君に特別業務を命じようと思ってな」
「特別業務?」
 後ろに立つ社長の口から出てきた物々しいセリフに、無意識のうちに体が硬くなる。俺の様子を見て、社長が小さく笑った……ような気がした。
「なに、大したことじゃない。律子君の誕生日を祝ってきたまえ」
「……は?」
 予想外なんてものじゃない。そんな「特別業務」、誰が予想できる? 律子だってそうだ。一体何を言われているのかわからない、そんな表情を浮かべていた。
「もう。鈍いですよ、プロデューサーさん。要するに、律子さんとデートして来い、ってことです」
「デ、デートっ?」
 ……予想外を通り越した話の展開に思わず絶句してしまった俺の代わりに、律子が素っ頓狂な声を上げる。見れば、少し顔も赤くなっている……ような気がする。
「うむ。とはいえ、律子君だってアイドルだ。多少は変装も必要だろうということで、髪を解いてもらったわけだ」
「その服は、私と社長からのプレゼントですから。遠慮なく受け取ってくださいね」
「あ、ありがとう、ございます」
 なるほど。そういうことか。謎はすべて解けた、が……。
「社長、他の業務は……」
「何を野暮なことをいっておる。『特別業務』だと言っただろ?」
「……わかりました」
 「社長命令」とあらばしょうがない。幸い、今日中に片付けなければならない仕事はもう残っていない。明日以降に回しても問題はないだろう。
「それじゃ、お二人でごゆっくり」
 そんな小鳥さんの笑顔に見送られて、俺たちは事務所を出た。


「その……迷惑ですか?」
 事務所を出て開口一番、律子が少し不安そうに尋ねてきた。
「いや……そんなことはないが……ちょっと展開についていけてない感じ、かな」
「あはは。私もそんな感じ、です」
 苦笑いで答えた俺に、律子の顔にも笑顔が戻る。お互い、ようやく普段の自分たちに戻ってきた感じだ。
「そういう律子こそ、オフだったのによかったのか?」
「ええ、それは別に。オフだからって特に何か予定があったわけでもないですから」
「そっか……ま、あれだ。折角のお膳立てだ。今日は一つ、精一杯誕生日を祝わせていただくことにするよ」
 俺だって律子の誕生日を祝ってやりたい気持ちはあった。こうやって舞台を整えてくれた社長と小鳥さんに感謝するべきなのだろう、多分。
「なんですか。その『精一杯誕生日を祝う』って」
「さぁ? なんだろうな。強いて言うなら、俺の意思表明かな」
「意味がわからないですよ」
 あきれたように笑う律子だけど、心なしか少し、表情がやわらかい気がする。
「はは。俺もよくわからん」
「もう。ほんとプロデューサーはいい加減なんだから」
「相変わらず手厳しいな。じゃ、まずは飯でも行きますか」
 いつまでも事務所まえで立ち話をしていても埒があかない。貴重な時間を浪費するのも馬鹿らしい話だと思って、とりあえず歩き出そうとした俺を、律子が呼び止めた。
「あ、あの……」
「ん?」
「その、最初の誕生日プレゼントってことで、プロデューサーの腕、いただけませんか?」
 柄にもなく、もじもじしながら妙なことを口走る。腕が欲しい? 切り落とせというのか?
「は?」
「つまり、こういうことです」
「って、り、律子?」
 俺の腕に自分の腕を絡めて、律子が軽く寄りかかってきた。思わずよろけそうになった自分の足をなんとか立て直す。
「折角の『デート』、なんですから」
「ったく……ま、こんな腕でよければいつでも」
「ふふ。ありがとうございます」
 少々気恥ずかしくはあるが……この程度のことで律子が笑顔になってくれるなら安いものだ。やっぱり律子には笑顔でいて欲しい、笑顔が一番似合う。そう思う。

「律子……誕生日、おめでとう」
【2008/06/23 22:25】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

コンプレックス(原案)

「あ、おはようございます。律子……さん」
「おはよう、美希。今日はレッスン?」
「うん。あ、はい……なの」
「そう、頑張ってね」
「ふぅ……」
「また随分と大きなため息ですね、律子さん」
「もう、からかわないで下さいよ、プロデューサー」
「いやいや、からかってなんかないぞ。担当アイドルがそんな大きなため息をしていちゃ、プロデューサーとしては気にしないわけにもいくまい?」
「まぁ……それはそうかもしれませんけど」
「で、そのため息は深刻な悩みなのかな?」
「うーん……別にたいしたことじゃないですよ。相変わらず美希には怖がられてるみたいだな、って」
「そりゃ、律子は泣く子も黙る鬼軍曹だからなぁ」
「……何かおっしゃいましたか? プロデューサー殿?」
「嫌だなぁ、ちょっとした冗談じゃないですか。笑顔が怖いですよ? 律子さん」
「まったく……担当アイドル捕まえて『鬼軍曹』なんて、あんまりですよ。そりゃ、全面的に否定できない面がないとは言いませんけど……」
「大丈夫だよ。そういうところが好きっていうファンもたくさんいるんだし、律子だって、ちゃんとかわいいもあるから」
「それ、あまりほめられてる気がしないんですけど……」
「気のせい気のせい。それより、さっきのため息の理由は本当にそれだけ?」
「え?」
「美希に怖がられてるのは今に始まったことじゃないし、それにその程度のことでつくため息にしては、随分と深刻そうな顔をしていたけど?」
「そんなに深刻そうな顔をしてました? 私」
「割と、かなり」
「まぁ……そうですね……。最近美希も随分変わってきたな、って思って」
「確かに。最初、うちの事務所に来た時は、確かにルックスはいいけど正直成功させるのは難しいんじゃないかって、俺も思ってたよ」
「この業界のこと、なめてるとしか思えませんでしたし。社長の目も随分と曇ったもんだ、なんて思いましたよ」
「ははは。まぁ、社長も『最初は世紀の逸材だ! と思ったんだがなぁ……』なんて言ってたしな」
「お、その物まね、ちょっと似てましたよ。どうです? プロデューサーも物まね芸人としてデビューとか」
「社長の物まねしたって飯は食えないだろ? それはそれとして、結果として社長の見立ては正しかった、ということになるのかな」
「そうですね……。担当プロデューサーに恵まれた、っていうことはあるにせよ、少なくともそれだけの素質はあった、ってことですよね」
「同じ事務所所属の人間としては嬉しい反面、強力なライバルにもなるわけだから、複雑な気分ではあるね」
「そこなんです。私、ただでさえ地味なのに、同じ事務所であれだけ目立つ子が出てきちゃうと埋没しちゃうような気がして……」
「気にすることはないさ。ファンにとっては、誰がどこの事務所に所属しているかなんてことは関係ないしな」
「でも、事務所にとってはそうじゃないでしょ? より売れる方にリソースを割こうとするのは当然のことだと思うし」
「つまり律子は、自分で負けを認めると、こういうことかな?」
「え?」
「律子としては、事務所からそう見られてもやむを得ない、自分は美希と比べると劣っていると、認めるのか?」
「それは……。だって、私よりずっとかわいいし、歌もダンスも、最近目に見えて上達してきてるし……あたっ! いきなり何するんですかっ! デコピンなんて!」
「いい加減、『身の程』をわきまえたらどうだ?」
「わきまえてます。わきまえてるからこそ……」
「いや、わきまえてない。律子、律子は自分のことを過小評価しすぎだよ」
「そんな気休めなんていりません」
「気休めなんかじゃないさ。じゃあ、今の律子を応援してくれるファンの存在は、一体何なんだ?」
「何なんだって……それは……」
「律子だって知ってるだろ? 毎日のように来ているファンレターとか、あるいはCDのセールスだってそうだ。律子はその現実を否定するのか?」
「それは……その、戦略がはまったからであって……」
「それでいいじゃないか。アイドルってのは偶像だ。『秋月律子』というアイドルは、俺と律子で創り上げてきたものだ。そしてその創り上げてきた『秋月律子』を応援してくれるファンたちが、確実にこれだけの数いるってことは、紛れもない事実じゃないか?」
「……」
「だから、律子は何も引け目に感じる必要なんてない。律子は『秋月律子』であるからこそ、価値がある。律子だってそれはわかっているんじゃないか?」
「そう、ですね……」
「ま、そう考えてみると多少寂しい部分もあるが、この業界っていうのは、結局そういうものだろうからな。だから俺はこれからも、『秋月律子』をプロデュースしつづけるよ」
「わかりました。そういうことなら私も腹をくくらないと、ね。これからもよろしく、プロデューサー」
「おう、こちらこそよろしくな」
【2008/04/18 11:21】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

彼女が髪をほどいたら

『知性派アイドルの思わぬ素顔! 髪をほどいた彼女の新たな魅力にクラクラ!』

 アイドル雑誌に踊る、そんな見出し。『パジャマdeオジャマ』なんていう、どこかで見たようなシリーズ記事にお声がかかって、パジャマ姿で髪を下ろして取材を受けたわけだけど……。
「いやー、思っていた以上に反響が大きいな」
「そうですね……」
 雑誌を片手に苦笑いを浮かべるプロデューサーに、私も苦笑いを返すしかない。雑誌が発売されてから、ネットを中心に私が思っていた以上の反響があって正直戸惑っている、そんなところだ。もっとも、あくまでネット中心というあたり、ああ、やっぱり私ってそういうキャラクターなのかなぁ、なんて思ったりもする。
「まぁ、好意的な反響が多いのはありがたいことだけどね」
「そこは素直に喜びたいですけど……」
 せっかく雑誌に出るわけだから、イメージアップを狙いたいのは当然。そういう意味では今回の路線は正解だった、ということだろう。ただ……
「プロデューサー、やっぱり普段から髪を下ろした方がいいんですかね?」
「え? うーん……」 
 そううなって、プロデューサーが腕を組む。今まで築いてきたイメージというのがあるとはいえ、それよりも人気が出るというのなら、戦略としてそういう方向に進むというのも考えなくちゃいけないのかもしれない。その辺、プロデューサーはどう考えているのだろう。
「俺としては、今の路線を崩すつもりはないんだけどな」
「どうしてですか?」
 巷では「覚醒」だの「拘束具が取れた」だの言われてるわけで、これってやっぱり、今までのビジュアルイメージに問題があったと考えるのが自然なはず。それなのに、今まで通り?
 そんな私の疑問に、プロデューサーが軽く笑う。
「そりゃ、俺が『今までの律子』の方が好きだからに決まってるでしょ」
「……はぁ?」
「いや、冗談冗談。えっと、今まで律子はお下げでやってきたわけだ。それは、俺としては律子のイメージとして最も自然だと思ったからだし、その考えは今でも変わらない。そして、そうやって築き上げたイメージっていうのは、髪を下ろして反響があったからっていうだけで変えられるほど安っぽいものだとは、俺は思っていない」
 そこで一度切って、コーヒーに手を伸ばす。なんとなく私も、マグカップに手を伸ばした。
「髪を下ろしたら、ひょっとしたらもっと人気が出るかもしれない。でも、『秋月律子』というアイドルの魅力は、あくまでお下げの時に一番引き出されていると、俺は思っている。『髪を下ろした律子』には、『髪を下ろした律子』なりの路線が必要とされるだろうし、それは場合によっては今までのファンを切り捨てることにもなりかねない。そういうことはしたくないと、俺は思っている」
「髪を下ろした方が、より多くのファンが獲得できるとしても、ですか?」
「難しい問題だね。確かに、髪を下ろした方が多くのファンが獲得できるのなら、そういう路線に変更するのが本来あるべき姿かもしれない。でも俺は、『秋月律子』のプロデューサーである俺は、やっぱり今まで通りの律子をプロデュースしていきたいと思っているし、今までの『秋月律子』こそが『真の秋月律子』だと思っているから」
 そう語るプロデューサーの顔には、迷いは感じられなかった。そうか、プロデューサーの中には確固たる『秋月律子』がいるんだ。それなら、私も迷う必要なんてない。
「そうですね。そういうことなら、私としても今までの路線を走るのみ、です」
「うん。たまにこういう『隙』を見せるのはいいと思うけど、これはあくまで『隙』。そう、いつもカチッとしてる律子がふとした瞬間に見せる『隙』だから、色っぽく見える、そういうことさ」
「色っぽくって……もう!」
 何をいきなり言い出すんだろう。不意打ちの言葉に、不覚にも顔が熱くなってしまった。
「お、いいね。そういう照れた律子もかわいいよ」
「か、からかわないでください!」
 まったく、時々こういうことを言い出すから始末に困る。でも、今日のところは、いいか。
「あははははは。でも、律子の『隙』は、俺の前だけで見せて欲しいかもな……」
「え? 何か言いました?」
 そう聞き返した私に、プロデューサーが軽く首を振る。
「ん? やっぱり律子は、どんな格好をしてもかわいいって言っただけだよ」
「はぁ? まったく、くだらないこと言ってないでさっさと仕事してください!」
「はいはい。じゃあ、今日も頑張っていきますかね」
 そう、私には私なりの売り方がある。それを信じて、プロデューサーと進んでいこう。改めてそう、心に決めた。
【2008/03/27 10:24】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

初めてのお買い物 その3

この辺のお話の続きと思いねぇ。



「ねぇねぇ。やっぱミキ的にはコンタクトがいいって思うんだけどなぁ」
「そうは言うけどね。今まで活動してきたイメージってのもあるし、簡単に変えるわけにもいかないわよ」
 色々と律子さんに似合いそうなフレームを探してみたけど、やっぱりミキ的にはなかなかしっくり来るものが見つからない。眼鏡を外した横顔を見ていると、絶対眼鏡がない方がいいと思うんだけど。
「これなんかどうかな?」
 そういって律子さんが選んでいるのは、何の変哲もない、黒ぶちのセルフレーム。まったく、変わり映えがしない。
「ぶー。律子さん、本気で選んでる? それ、今かけてるのとぜんっぜん変わんないよ?」
「うーん。そもそも私としては、無理にイメージを変える必要を感じてないんだけど……」
「えー? でもでも、律子さんだって変わりたいって思ってるんでしょ?」
「え? えっと……まぁ、その、多少は。あ、でも、やっぱりアイドルなんだから、勝手にイメージを変えるわけにもいかないじゃない?」
 もう、どうしてそんなに真面目かなぁ。いつもいつも仕事仕事だと息も詰まっちゃわないのかな? 律子さんはもうちょっと、肩の力を抜くべきだと思ってるんだけど。
「だったら、せめて私生活だけでもイメージチェンジ、ねっ!」
「じゃ、じゃあ、プライベートは、まぁ、ちょっと……」
 渋々といった感じで、それでもやっと、律子さんがうなずいてくれた。
「よーし、決定! じゃあさっそく、コンタクトにしてみよーっ!」
「それは却下」
「ぶー」
 でも、ま、いいか。まずは眼鏡から、律子さんの改造大作戦、いってみよー!



「……やっぱり、あんまり変わらないね……」
「そう? 私としては結構イメージが変わったと思うんだけど」
 ああでもないこうでもないと一時間くらい二人で言って、結局律子さんが選んだのはフレームのないタイプの眼鏡。確かに、ちょっと雰囲気が軽くなったような気はするけど、結局のところ眼鏡があることには変わらないから、あんまり大きくイメージが変わったようには見えない。うーん、ちょっと消化不良な感じ。
 でも、律子さんはなんだか満足げだし、よかった……のかな?
「うーん。じゃあ、次は服だね」
「え? まだやるの?」
「何言ってるの? こんなの序の口だよ。それに、結局眼鏡かけたままなんだし、こうなったら服で思いっきり、イメチェンしないと」
 気のせいかな? 律子さんの腰が引けてるように見えるのは。
「あー……えっと、その前にご飯食べない?」
「ミキ、まだそんなにお腹空いてないよ。それより早く行こ?」
「えっと……はい」
 眼鏡の仇は服で取らないと。なんだろう、普段自分の服を選ぶ時よりもどきどきしてる。うーん、ちょっと癖になっちゃうかも。
【2008/03/11 15:18】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

初めてのお買い物 その2

この辺のお話の続きと思いねぇ。



(それにしても……)
 隣に並んで歩く美希を見ていると、改めて彼女の持つ「華」に気付かされる。野暮ったい伊達眼鏡と、カラースプレーで偽装した髪の毛、どこから見てもいつもの美希とは違うのに、それでもにじみ出るものは隠せないのか、さっきからちらちらとこっちを見ている人が何人もいる。
(どう考えても、釣り合わないわよね……)
 変装するまでもなく、街中を歩いていても声をかけられることなんてほとんどない私、変装していてもなお、道行く人が振り返る美希。そもそも、私がアイドルデビューするなんてこと自体、想像すらしていなかったわけだけど。
 オフの日までこの悩みが頭をもたげてくるなんて……まったく、因果な話だ。そんなことを考えていると、ふいに袖を引かれた。
「ん? どうかした?」
 袖を引いたのは、もちろん美希。なんだか、妙に不安そうな顔をしている。
「律子さん、ミキと歩いてて、楽しくない?」
「え? どうして?」
「だって、さっきから律子さん、なんだかずっと暗い顔してるから……」
 そんな風に、妙に寂しそうに言う美希を見て少し反省する。そうだ、せっかくのオフなんだし、しかも一人でいるわけじゃないんだから、あまり暗い顔ばかりしているのもよくない、か。
「大丈夫、そんなことないわ。ちょっと考え事をしてただけ」
「考え事?」
「さっき、美希がファンに囲まれて大変なことになった、って言ってたじゃない? 私って、デビューしてからもそういう経験がないがないから、ちょっと、その」
 悔しい……と言いかけて、口をつぐむ。悔しい? 元々そんなこと望んでいたわけじゃないの? でも美希の話を聞いて、少し羨ましいと思ったのも事実……そんな複雑な心境が、語尾を濁らせた。
「んー。つまり、律子さんももっと目立ちたい、ってこと?」
「えっと……別に、そういうわけじゃ……」
「なぁんだ。そういうことなら大丈夫、ミキに任せて!」
 ない、と言おうとしたら、美希がそれをさえぎるように満面の笑みを浮かべて胸を張った。
「ま、任せるって、何を?」
「律子さんって素材はいいから、ちゃんと磨けば光るよ、ミキが保証する!」
「い、いや、えっと……」
 あ、あれ? なんだか話が勝手に進んでいるような気がするのは、気のせい?
「それじゃ、律子さん変身大作戦その一、れっつごー! なの!」
「え? あ、ちょ、ちょっと美希、危ないから手、引っ張らないで!」
 目を輝かせて私の手を引く美希に、私は一抹の不安を感じずにはいられなかった……

*

「まずは、その眼鏡を何とかするの」
 そんなわけで、まず連れてこられたのは眼鏡屋。なんとなく展開が読めたので、機先を制しておくことにする。
「先に言っておくけど、コンタクトにはしないわよ?」
「えー? どうしてー?」
 案の定、美希が不満そうな顔をした。やっぱりそうだったのか。
「どうしてって……目の中に物を入れるなんて、そんな恐ろしいことできるわけないじゃない」
「むー。そんなの、やってみないとわからないよ」
 そう言って、美希が不満げに頬を膨らませる。まったく……自分がするわけじゃないからって無責任な。
「じゃあ美希、やってみる?」
「ミキは目、悪くないから必要ないの」
 そりゃそうだ。美希が今かけているのは変装用の伊達眼鏡。美希の目が悪いなんて話は聞いたことがない。
「ほら、カラコンとかあるじゃない。ああいうのには興味ないの?」
「んー。昔はちょっと興味あったけど、今は別に。そんなことしなくてもミキ、じゅーぶんいけてるし」
「あ、そう」
 むぅ。こうもあっけらかんと言われると、嫌味にも聞こえない。まったく、恐ろしい子だ。
「じゃあじゃあせめて、その野暮ったいフレームを何とかしようよ。それだけでも結構、雰囲気変わると思うな」
「野暮ったくて悪かったわね」
「ぅー。そんな怖い顔、して欲しくないの……」
「う……ごめん……」
 どうも美希と話をしていると調子が狂う。これがプロデューサー相手だと多少邪険に扱っても問題はないのだけれど……。
「じゃあさっそく、色々なフレームを試してみるの!」
 さっき泣いたカラスが……なんて言葉がふと頭をよぎる。ほんと、表情豊かというか、なんというか……でも、こういうところが美希の魅力なんだろうなぁと、改めて感じずにはいられなかった。
【2008/03/03 17:24】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

誕生

「それじゃ、お疲れ様でしたー!」
「お先に失礼しますねー」
「千早ちゃん、また明日」
「はい、今日は本当にありがとうございました」
 二月二十五日。そう、今日は私の誕生日。数年前までは祝ってくれる人もおらず、寂しい思い出しかなかったこの日も、765プロという場所、そして得がたい仲間に出会えたおかげで、改めて「嬉しい日」だという風に思えるようになった。
 こうやって大勢の仲間に誕生日を祝ってもらう、そんな日がくるなんて、ここに来るまで思ってもいなかった。遠い昔、まだ私にも「家族」と呼べる存在があったころ、確かこんな日があったように、かすかに記憶はしているのだけれど。
「あれ? 千早、まだ帰ってなかったのか?」
「あ、プロデューサー。一応、片付けをしておこうと思いまして」
 もう誰も残っていないと思った事務所、かけられた声に振り向くと、少し驚いたような顔をしているプロデューサーの姿があった。私の言葉を聞いて、驚きが苦笑いに変容する。
「おいおい、今日の主賓は千早だろ? 千早がそんなことする必要ないじゃないか」
「気にしないでください。私がやりたいからやっているだけ、ですから」
 といっても、みんなで一通り片付けた後だから、言うほど散らかっているわけではない。ただ、今日という日の残り香に少しひたりたかったということの方が大きい。
「そうか。じゃあ僕も手伝うよ」
「そんな、プロデューサーもお疲れでしょうし……」
「いいっていいって。それとも迷惑かな?」
「そこまでおっしゃるなら……」
 他に誰もいない空間でプロデューサーと二人、事務所を片付ける。元々それほど散らかっていたわけでもないその空間は、二人がかりだとあっという間に片付いてしまった。
「こんなもんかな」
「そうですね……」
 明日からまたこの場所はいつもの顔に戻る。当たり前のことではあるけれど、ほんの少し、それを寂しいと思う自分がいる。こんな気持ち、私の中にもまだ残っていたなんて。
「変わったな、千早は」
「え?」
 突然、しみじみそんなことを言い出すプロデューサー。小さく声を上げた私に、穏やかな笑みで言葉を続ける。
「僕と出逢った頃の千早は、今日みたいに笑うなんてことなかったな、と思ってさ。ずっと一人気を張って、周りを拒絶するというか、そんな雰囲気をかもし出していたから」
「そう……ですね。確かにあの頃の私は誰のことも信頼せずにただただ自分だけで手一杯で……もしあのままの私だったらどうなっていたか、考えるだけでもぞっとします」
「そうか。そう思えるようになったってことは、やっぱり随分と変わったってことだな。それもいい方向に」
 事務所の仲間、仕事で関わった人たち、そしてプロデューサー。人と交わることで自分が変わっていく、当たり前のことだけど、その辿り着いた場所が今ここだというのなら、それは私にとってもきっと、幸せなことだったのだろう。
「『一人でも私は生きられるけど でも誰かとならば人生ははるかに違う……』」
「『強気で強気で生きてる人ほど、些細な寂しさでつまずくものよ』」
 そう、今、この出会いがなかったとしても、それはそれなりの人生というものが私にも多分用意されていたのだろう。でも、この「誰か」がいたから、今の私がいる。だから私は、今日という日を借りて、自分の大切な人にその気持ちを伝えたい、そう思う。
「プロデューサー。今日までありがとうございました。私、プロデューサーと出逢えて、本当によかったと思います」
「ど、どうしたんだ? 急に。その言い方だとまるで……」
「そんな顔しないでください。別にどこかに行ったりするわけじゃありません。ただ、今日こうやって誕生日を迎えることが出来たのはプロデューサーのおかげだと、思うから……」
 そこまで言って、ものすごく恥ずかしいことを言っているような気が急にしてきた。なんだかプロデューサーの顔が直視できない。
「千早……『生まれてくれてWelcome』」
 肩に回されたプロデューサーの腕、そこから伝わってくる体温が、今の私にはとても心地よかった……
【2008/02/25 16:22】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

彼女のキモチ、私のキモチ

一応、こちらのお話(2.1.4.)の続きです。



(……って、逃げ出してどうするのよ……)
 仕事があるから事務所に来たわけで、こんなくだらない理由で仕事に穴をあけるなんてこと、できるはずもない。とりあえずトイレに駆け込んではみたものの、いつまでもここにこもっている訳にはいかないこともわかっている。
『律子さーん! どこに行ったのー? 出てきてほしいのー』
(ふぅ……そろそろ出て行くか……)
 美希が私のことを探している声が聞こえてくる。これ以上ここに立てこもっていると、どんどん騒動が大きくなっていくような気も、しなくはない。意を決してドアを開ける。
「美希ー、ここよ、ここ」
「あーっ! こんなところにいたの! どうして逃げるのっ?」
 腰に手を当てて、少し頬を膨らせてそう口にする美希を見ていると、ああ、美希もまだ中学生なんだなぁ、なんてことを少し思う。
「ごめんごめん、ちょっと予想外の展開だったからつい、ね」
 真あたりならこういうシチュエーションにも慣れているかも知れないけど、初めてチョコレートを差し出されて平静でいられるほど、私はバレンタインというものに慣れていない。だからといって、逃げ出すというのもそれはそれで我ながらどうだろう? という気もしなくはない。
「ぅー。律子さん、ミキのこと、嫌いなの?」
「いや、そういうことじゃなくって、ね。ほら、バレンタインって本来男の人にチョコを贈る日でしょ? 自分が贈られる立場になるなんてこと、想像もしてなかったからね」
 トイレの前で立ち話をしていてもしょうがない。美希と並んで事務室へと歩き出す。
「うーん。ミキ的には、バレンタインは大切な人に、気持ちを伝える日だと思ってるんだけどな」
「まぁ、そういう面もあるとは思うけど」
 なんだか、真の気持ちが少し理解できる気がする。それと同時に、私にとっての「バレンタイン」についても思い出す。
「だから、ミキはミキにとって大切な人に、その気持ちを伝えるためにチョコレートを用意したの」
 大切な人に、気持ちを……うん、そう、そういうこと。自分にとって大切な人に、ありがとうの気持ちを。それだけ、それだけのはず。
「おう、お帰り、二人とも」
「ただいまなの。と、いうわけで。律子さん、ミキの気持ち、受け取ってほしいの」
 事務室に戻るなり、プロデューサーの声に形だけ反応して改めて美希が私に「気持ち」を差し出してくる。
「うん、ありがとう。これからもよろしくね、美希」
「はいなの! ミキの方こそ、よろしくお願いするの!」
「うんうん。仲良きことは美しきことかな、だな」
 どこかで聞いたような科白が後ろから聞こえてくる。でも、申し訳ないけどちょっと、いやかなり、迫力というか、そういうものが足りない、かな。
「あふぅ。プロデューサー、それ、社長さんの真似?」
「全っ然、似てませんよ?」
「あ、そう」
 二人からそう言われて、プロデューサーが目に見えてがっかりしたような表情を浮かべる。こういうところは、本当に自分より年上? なんて、思ってしまうこともあったり。
「もう。くだらないこと言ってないで仕事……の前に、これ」
 できるだけさりげなく、さりげなく……と思って私が差し出した包みを、何故かプロデューサーがぽかんと見つめている。ぅー、人がせっかく意を決して出したのに、そこで止まられると困ってしまうんだけど……。
「律子さん、これって、チョコレート、だよね?」
 まるでプロデューサーの気持ちを代弁するかのように、美希がそう不思議そうに尋ねてくる。
「ほら、義理よ、義理。一応、いつもお世話になっているわけだし、こういうことは形っていうか、そういうなんていうかな、付き合い? 大事な世界じゃないですか。それだけですよ、それだけ」
「え? ああ、ありがとう」
 そこでやっと、プロデューサーが手を伸ばして包みを受け取って……って、美希!?
「これ、もしかして手作り?」
「ち、違う違う、買ってきたやつに決まって……って、勝手に開けないで!」
 必死に取り返そうとする私を器用によけて、美希が包装を解いていく。ああ、どうしてこんなことに……
「あー。やっぱり手作りー。こんな箱のメーカーなんてないよ」
「いいから返しなさいっ! って。もう……」
 結局、悪戦苦闘しながらラッピングした成果空しく、中身の箱剥き出しの状態でようやく取りかえして、改めてプロデューサーに渡す。
「ちょうどうちの実家で、バレンタイン用のチョコレートを仕入れすぎちゃったらしくて余って困ってたから。だから、ちょっと作ってみただけです、それだけですからね」
「え? あ、ああ、ありがとう。えっと、食べていいかな?」
「ど、どうぞ? そのためのチョコですから」
 うー。なんで私、こんなことしてるんだろう……自分でも何が起こってるのか、段々わからなくなってきた。
「いーなー。律子さんの手作りチョコー」
「もう。私のチョコレートなんか……」
「うん、美味しいよ。ありがとう」
「い、いえ。あ、それはきっと、元の材料がよかったからですよ、うん」
 プロデューサーも、そんな無防備に笑ったりしないで欲しい。なんだか、こう、ちょっと変な気持ちになってくる……。
「あー。なんだか律子さんとそこの人、いいふいんきなのー。ミキ的にはちょっとジェラシー感じちゃうなー」
「なっ! み、美希、何を……」
「律子さん、顔が真っ赤なの。そこの人、律子さんを取らないでほしいな」
 そう指摘されて、初めて自分の頭に血が上っていることに気付いた。いや、そもそもいつの間に私は美希の所有物に?
「いや、取るってそんな」
「だから、どうしてこうなるのよーーーっ!」
【2008/02/19 15:20】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

2.1.4.

「おはようございます。プロデューサー」
「ん? ああ、おはよう」
 といっても、時計はそろそろ夕方になるかならないかというところをさしている。本来なら「こんにちわ」、あるいは無難に「お疲れ様」なのだろうけど、この業界の慣例なのだからしょうがない。
 いつも通りパソコンに向かっているプロデューサー、いつもの光景に、いつもはないものがあることに気がついた。
「プロデューサー、それ、チョコレートですか?」
 私の視線の先、キーボードの脇に置いてある小さな箱(開封済み)を見て、プロデューサーが軽く笑う。
「ああ、小鳥さんからね。『これ食べて、今年も頑張ってくださいね』って」
「そ、そうですか」
「『もちろん義理ですから』と、しっかり付け加えられちゃったけどな」
 邪気のない顔でそう笑うプロデューサー。まったく。鼻の下をでれーっと伸ばしちゃって。少しほっとした反面、その暢気さが少し癪だったりもする。
「あ、えっと、プ……」
「おはようなの! 律子さん、プロデューサーさん!」
「うゎあ! って、み、美希、おはよう」
 ふいに後ろからかかった声に驚いて振り向くと、きょとんとした美希の顔があった。
「どうしたの? 律子さん。そんなに驚いて」
「い、いえ、いきなり後ろから声をかけられたから、つい……」
 そう繕った私の顔をいぶかしげに見たのも一瞬、すぐに輝くような笑顔を浮かべて美希が体を乗り出してきた。
「ふーん……あ、それよりそれより、今日ってバレンタインデーだよね! ミキね、チョコレート作ってきたんだ!」
「……で、どうしてそれを私に言うの?」
 日本においてバレンタインデーというのは、女性から男性にチョコレートを贈る風習のはず。この場に男性はプロデューサー一人で、本来なら美希の発言はプロデューサーに向かってされるべきものじゃないの? そんな私の疑問に、むしろ不思議そうな顔を浮かべて美希が答える。
「どうしてって、律子さんのためにチョコレートを作ってきたから、だけど。あ、プロデューサーさんにはこれ、ね」
 そう言って取り出してきたのは、近所のコンビニのビニール袋に入ったままの、既製品のチョコレート。もう、義理も義理、これ以上ない「義理チョコアピール」とでも言えばいいのだろうか。
「ははは。ありがと」
 さしものプロデューサーも、苦笑いを浮かべるしかない様子。でも美希は、そんな私たち二人に頓着する風もなく、今度は緑色の包装紙で綺麗に包装されて、赤いリボンで彩られた包みを取り出して、私のほうへと向き直った。
「はい、律子さん。これ、ミキの気持ち、受け取って欲しいの!」
「え、えぇっと……」
 チョコレートをあげる立場に関してはさておくとして、今まで生きてきてチョコレートを差し出されたことなんてなかったから、一体どう反応すればいいのか正解なのか、よくわからない。
「律子さん、ミキのこと、嫌いなの……?」
「い、いや、そういうことじゃ、なくって……」
 少し潤んだ目で、美希がこっちを見ている。でも、一足飛びにそこまで理論が飛躍されても困ってしまう。というか、美希が言ってる「好き」っていうのはつまり、どういうことなのかっていうのがよくわからなくって、その、だから……
「ごめん! ちょっと頭を冷やしてくる!」
「ちょ、ちょっと律子!」
「律子さんっ! ま、待って欲しいのっ!」
 たかがチョコレート、されどチョコレート……ある意味、「生まれて初めての」バレンタインデーがこんなことになるなんて、思ってもいなかった……
【2008/02/14 11:16】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

初めてのお買い物 その1(?)

「……遅い」
 何度時計を見直してみても、待ち合わせの時間はとっくに過ぎている。メールを出してみても反応はないし、電話をかけてみても『留守番電話サービスに、接続いたします』という、無機質な反応が返ってくるだけ。嫌な予感はしていたけれど、ここまで予想通りだと怒るを通り越して呆れ……もする一方、やっぱり腹立たしいことこの上ない。携帯を取り出してみても、不在着信もないしメールの通知もきていない。
「まったく……」
 ひとつため息をついて、街行く人に目をやる。私と同じく、待ち合わせ中っぽい人が多い中で、私の存在に気付いている人はどうやらいないらしい。まぁ、たたでさえ地味な上に、学校指定のコートなんかを着ているものだから目立つわけもないといってしまえばそれまでだけど、仮にもTVにも出ているっていうのにこれはちょっと……寂しいといえば寂しい。
「あ、律子さん、待った?」
「遅い! 何分待たせたら……って、美希?」
 やれやれ、やっと待ち人来るか、聞き慣れた声に振り返るとそこには見慣れない女の子……いや、よくよく見てみたら確かに美希、なんだけど……。
「え? ミキ、時間通りに来たつもりだけど……。どうしたの? 律子さん」
「えっと……美希、よね?」
 そう私が聞き返すのも無理はないと思う。だって、トレードマークとも言える鮮やかな金髪は、ごくごくおとなしいと言ってもいい茶髪だし、それに顔の真ん中には眼鏡……。
「どうしたの? 律子さん。ミキはミキに決まってる……あ、この変装のこと?」
 うなずいた私に、邪気のない笑顔を浮かべて美希が答える。
「ミキね、デビューしてから声かけられることが多くなっちゃって。あ、それまででもナンパとかよくされたんだけど、デビューしてからはファンの人とかに囲まれちゃって大変なことになったりもしたから、休みの日に外出する時はこうやって変装してるの。律子さんはそういうこと、ないの?」
「いや、私は特に……」
 今まで街中でサインを求めたれたこととかがないわけではない。でもそれこそ数えるくらいしかないわけで……こういう話を聞いていると、やっぱり自分は地味なんだなぁと痛感させられる。
「そうなの? 羨ましいの」
 軽く凹んだ私の気も知らず、無邪気に笑っている美希が少しだけ、ほんの少しだけ憎い。駄目だ駄目だ、せっかくのオフなんだから、こんなことで凹んでいる場合じゃない。
「と、とにかく! 十分も遅刻よ! 時間厳守! 時は金なり!」
 だからと言って、こういう言い方しか出来ない自分が、また少し情けない。
「あふぅ……十分くらい、大目に見てほしいの……」
「何言ってるの! これが仕事だったら大問題よ? そもそも、携帯にメール入れたりしたのにまったく反応なかったじゃない」
「え? 律子さん、メールくれてたの?」
 そう言って慌てて鞄から携帯を取り出した美希。むぅ、やっぱりスルーされてたのか……。
「ご、ごめんなさい! まさか、律子さんがメールくれてるとは思ってなかったから……」
「……まぁいいわ。とにかく、今度からは気をつけてね」
「はいなの! じゃあ、しゅっぱーつ!」
「あ、ちょ、ちょっと!」
 嬉しそうに私の手を取って美希が歩き出す。その、満面の笑みを浮かべた横顔を見ていると、なんだか怒ったり凹んだりしていたことが少し馬鹿らしく、感じた。
【2008/02/08 13:36】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)
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管理人:霧島義隆

霧島義隆

アイドルマスターを夢見る永遠の超売れだったけど、07年7月29日についに、アイマス昇格をはたした量産型アイドルマスター。
昇格ユニットはあずあみ、ファン数は256万というやや微妙な数値。
律っちゃん一番律っちゃん二番、三時のおやつは律っちゃんというくらいの律っちゃんスキー。
なんちゃってSS書き。

口癖は律っちゃんは俺の嫁☆♪
危ないので石は投げないでください。

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律っちゃんは俺の嫁♪
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