霧島工房 アイマス同人界の隅っこで蠢くピコ手改めフェム手サークル
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律子オンリー、3年ぶりの単独開催!

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年に一度のシンデレラ

 私が、アイドルを引退してプロデューサーになってから何度目かの誕生日。今年もまた、去年と同じように私はステージに還り、一日だけ「アイドル」に戻る。まるで、一日だけ魔法をかけられてお城の舞踏会に行ったシンデレラのように。
 最初、誕生日限定の復活ライブを打診された時には、何を悪い冗談をと思っていた。アイドル活動には区切りをつけたのだし、第一引退したアイドルのライブなんて誰が見に来るのか、というのが正直なところだった。けれど、社長の、たまには俺もプロデューサー気分を味あわせてくれよというよくわからない懇願と、千早の、私も久しぶりに律子の歌が聞きたいわ、なんていう、お世辞なんだか本心なんだかよくわからない追い打ちに背中を押されて、もう一度ステージに立つことになってしまった。
 そう、そんなことは一度きりにするつもりだったのだ。一度やれば、社長も納得するだろうしそもそもお客もそんなに入らないだろう……そう思っていたのに、その予想はいい意味で裏切られてしまった。どうやら自分が思っていたよりも私はみなに愛されていたらしい……なんて言ったら、後から社長から卑下しすぎだなんて軽く怒られたけど、ともかくその一夜限りだったはずの復活ライブは思いのほかチケットも売れ、盛況のうちに終わってしまったのだった。
 とはいうものの、あくまで一回こっきりの話にするつもりだった。一年経てばファンも減るだろうし、いつまでもアイドルを引きずってプロデューサー業がおろそかになってしまったら本末転倒、そう思っていたから。思っていたのに、また一年経つと社長が外堀を埋め、千早が背中を押すものだから、つい、その気になってのこのことステージに立ってしまった。
 正直に白状しよう。そうやってステージに立つのが、楽しかったのだ。自分が思っていた以上に。最初は、今更アイドルに戻るなんて……と思っていたし、そもそも完全にアイドルに返り咲く気なんてない。それでも、一年に一度、あの時いた場所に戻るという体験は思いのほか甘美で、だから、そこに戻ることを期待し、喜んでくれる人がいるのであれば……というのは、結局のところ言い訳にすぎないのかもしれない。

 ――だからまた、私は今年も、ここにいる。
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【2014/06/23 00:00】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

I love you.

「毎年思うんですけど、これって本当に誕生日プレゼント、なんですかね?」
「律子は嫌かい?」
「いえ……嫌、というわけでは……」
 普段着なれぬきらびやかなステージ衣装に、一年に一度だけ身を包む日。アイドルという立場から降りたはず――それも、もう七年くらい前の話だ――なのに、「魔法使い」に魔法をかけられて、ステージに戻ってくる日。社長とプロデューサーという関係から、プロデューサーとアイドルという懐かしい関係に、戻る日。
「ま、僕としては毎年律子の誕生日が仕事になっちゃって、二人きりでゆっくりいちゃいちゃ出来ないのは残念極まりないけど」
「……言っててください。まったく」
 残念ならやらなきゃいいのに……なんて言うとまた話がややこしくなるというのはこの八年近いの付き合いでよくわかっているから、言わない。もっとも、私も残念じゃないかと言われると……いや、やめておこう。
「にしても、毎年よく集まってくれるよね。ファンのみんなも」
「ありがたい話なんですけど、なんというか、申し訳ないような、そんな気も……」
 「誕生日限定復活ライブ」も、もう七回目。毎回毎回いっぱいいっぱいの応援をもらうと、こんな私に……なんていう風に、思ったりもしなくはない。
「申し訳ないって思うなら、いっそアイドルとして復帰する?」
「それはそれ、これはこれ、です」
「そっか、そりゃ残念」
 先の「残念」よりは多少実感がこもっている気がしなくもない「残念」に、胸の奥が少しだけうずく。でも、今の私はあくまで「プロデューサー」だから。それは、目の前のこの人も重々承知している、はずだ。
「いっそのこと、誕生日プレゼントは『僕』、なんて言えばいい?」
「……張り倒しますよ」
 なんだろう。一瞬でもしんみりした私が馬鹿みたいだ。馬鹿みたいだけれど、今更それをどうこう言うほど、この人との因縁も浅くはない。そういうところも含めて、伴侶として選んだのだから、それを云々するのは潔い話ではない。
「ごめんごめん、それはステージから帰ってきてから、ね」
「……もう。それじゃ、行ってきます」
「おう。みんなに祝ってきてもらいな」
 そう言って、ステージに送り出される。
 それじゃあ、行きますか――

『みんなー! 今年も、来てくれて、ありがとーーーー!』
【2013/06/23 00:00】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

夜のステージ

「なっとくいかない……」
「いつもいつも勝てるなら、苦労はしないよ」
 憮然とした表情でジョッキをあおる女と、どこか飄々とした表情で静かにジョッキを傾ける男。決して広いとは言えないその居酒屋の中スーツ姿で並ぶ二人は、地味な店のたたずまいに完全に埋没していた。
「あのしんさいん、目がくさってるんですよぉ、きっと」
「はは、律子が言うならそうかもしれないな」
「なんですか、ばかにしてんですか」
 ただ、二人の経歴は、見た目ほど地味ではない。一世を風靡した元トップアイドルと、元プロデューサー。
「んまぁ、千早の調子がいつもよりちょっとわるかったのは、私もみとめざるをえないですけど……すいません、生ちゅうもいっぱい!」
「はーい」
「……あんまり飲みすぎるなよ」
 そして今は、超売れっ子アイドルのプロデューサーと、その社長。今まさに店のBGMに流れている大ヒット曲を歌うアイドルに深くかかわる二人がこんなところで飲んでいるなんて、周りの酔客は知る由もない。
「だぁいじょうぶですよ。まだよいは浅いです。宵だけに。あはははははー」
「おいおい……」
 苦笑いを浮かべながらも、ジョッキを握る横顔はどこか嬉しそうでもある。いや、嬉しそうというよりも、懐かしそう、という方が正しいかもしれない。
「だいたい、ちはやもちはやですよ。オーディションにまけたってのに、『私のしょうじんがたりないのね』なんて、けろっとした顔で……もうちょっとくらい、感情をあらわにしたって……」
「その辺は、二人でデュオを組んでた頃と変わらないじゃないか」
 つと、遠くを見るような眼になって、思い出したように冷奴に箸をのばす。食べるでもなく豆腐の表面を撫でる箸先を、胡乱なまなざしで彼女が見つめていた。
「そうなんですよね……あのころからあの子、そうだった……あたしのあいかたにはもったいないくらいで……ちょっと社長、ぎょうぎがわるいですよ?」
「え? あ、ああ」
 一瞬箸を引っ込めて、改めて冷奴を取り、口へと運ぶ。その所作をぼんやり眺めている彼女の目元は、妙に艶めかしい。一瞬目が合い、ドキッとした表情を浮かべる。
「なんですかぁ。いやらしいめでみて。せくはらですか?」
「そんな訳ないだろ。まったく、冤罪もいいところだ」
 わざと怒ったような表情を浮かべる彼の頬が赤いのは、酔いのせいだけではなかったかもしれない。それに気付いているのかいないのか、彼女が彼の顔を覗き込む。
「ほんとですか? しゃちょうはゆだんもすきもないからなあ……あ、なまちゅうもういっぱい」
 間近に迫っていた彼女の顔がすっと去り、彼がそっと息をつく。赤い顔がさらに赤くなっていたことには触れないのが、優しさというものだろう。
「おいおい、まだ呑むのか?」
「らいじょうぶですって。びーるなんてみずですから。お、しゃちょうもじょっきからじゃないですぁ。なまちゅうもういっぱい!」
 一杯、また一杯とジョッキが空いていき、それとともに酔客も一人、また一人と帰路について周りの喧騒も引いていく。暖簾が下げられる頃には、店内に残っている客は二人だけになっていた。
「ほら律子、そろそろ閉店だ。帰るぞ」
「ん……ぷろでゅーさー……」
 むにゃむにゃと言葉にならない言葉を口の中で転がす彼女を見て、お手上げとばかりに首を横に振る。厨房から恰幅のいい男がジョッキ片手に近づいてきた。
「随分と呑んだね」
「いや、お恥ずかしい」
「まるで昔のアンタそっくりだ」
 笑いながらジョッキの中身を飲み干す男を前に、彼がバツの悪そうな笑みを浮かべる。
「て、店長……」
「あはは、冗談冗談。で、お姫さまは大丈夫なのかい?」
「死にはしませんよ。もっとも、明日は死にそうな顔になってそうですが」
 ちげぇねぇ、と店長も笑う。つられるように笑った彼が財布を取り出し、お会計を済ませた。さて、と一声発し、再び彼女の肩を揺する。
「ほら、律子。そろそろ行くぞ」
「ぅぅん……ぷろでゅー……さぁ……」
 しょうがないなぁ……と書かれた顔で、彼がため息をつく。苦笑いとともにもう一度、彼女の肩に手をかけた。
「ほら律子、何やってるんだ。千早もファンも、ステージで待ってるんだぞ。早く立たないか」
「え……あ、はい、すい……ません」
 ようやくゆらゆらと立ち上がった彼女の手を取って、自分の肩につかまらせる。肩に担がれた彼女の足取りは相変わらずおぼつかないけれど、何とか歩けそうなことを確認して、店の出口へと向かう。
「ご馳走様、お騒がせしました」
「いやいや、またよろしく」
 店長の声に送られて二人、店の外へと出た。人影もまばらな路地に、二人の背中が溶けていく。
「それじゃ……あぷろでゅーさー……み……ててくださ……い……」
「おう、いいステージ、期待してるぞ」
「まかせ……て……くだ……」

 ――彼女たちのステージは、これからも続いていく。
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【2012/09/05 19:31】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

特別な、いつもの日

 ピピピピッ ピピピピッ ピピピピッ……

 耳障りな音が、夢と現をさまよう私の意識の中に割り込んでくる。黒とも白ともつかない闇の中をたゆたう私の意識が、徐々に覚醒の水面へと浮かび上がってくる。
(んん……うる……っさい……っ)
 布団から伸ばした手が、音の元をつかむ。神経を逆なでする音がやみ、再び部屋に静寂が戻る。窓の外からかすかに聞こえるざわめきをBGMに、再び沈みかけた意識が、ようやく重い腰を上げた。
(……おはようございます……と)
 起床時間を示す時計の針が、眼鏡をかけない視界に入る。寝起きが悪いわけではない。が、いまだ完全に覚醒しきっていない身体を叩き起こすべく、シャワールームへと足を運ぶ。
(きょうの……予定は……)
 身体に当たる水流が、眠気を削り落としていく。エンジンを温めるように、頭の活動を一段、また一段とあげていく。どこか霞がかかっていた思考が、段々と明晰になって来るのを感じる。シャワーの栓を締める頃には、頭も身体もしっかりスイッチが入っていた。
 体のスイッチが入ったら、次は燃料だ。コーヒーをすすり、パンをかじりながらケータイをチェックする。スパムメール・メールマガジンに混じって、珍しい人からのメールが届いていた。
(お母さんから……? なんだろ)
 首をひねりながら、メールを開封する。何か悪い知らせだろうか……一抹の不安を抱いた私の眼前に現れた文面は、しかし私が全く予想していないものだった。

お誕生日おめでとう
今日は律子の誕生日だね。元気にやってるかい?しばらく顔を見てないけれど、たまには家にも顔を見せなさいね。それじゃ。

(あー……そういえば……)
 多忙な日常に急き立てられてすっかり忘れていた。母の気遣いがうれしくもあり、少しこそばゆくもある。
 今日は六月二十三日。私の二十二回目の誕生日だった。



「今日は東洋テレビで千早の収録が一本、桜花の予定はありません」
 事務所に出社し、いつも通り社長に今日の予定を報告する。元プロデューサーだったこの人を社長と仰いで一年以上、最初はどことなく違和感のあったこの関係も、いつの間にか当たり前のものになっていた。
「ふむ。ということは、さほど時間はかからないかな」
「ええ。特に何かトラブルでもなければ大丈夫だと思いますが……何か予定でも?」
 首を傾げた私に、社長が笑って答える。
「今日は律子の誕生日だからな。ささやかなパーティーでもと思って」
「え? いいですよ、別にそんなの」
 まだ「誕生日が怖い」というほどではないけれど、改めて祝われるのはなんだか照れくさい。少し腰が引けた私を見て、社長が鷹揚に首を振る。
「いやいや。こういうことはきちんとお祝いしておかないと。たまには肩の力を抜くことも大切だぞ」
「そんなこと言って、社長か抜きたいだけ、じゃないんですか?」
「んー。まぁ、否定はしない」
 それまでの偉そうなお言葉はどこに消えたのか、いたずらっ子のような表情で少し照れくさそうに笑う。
「まったく……とりあえず、できるだけ早く帰るようにはします」
「ああ、待ってるから」
 やれやれ……と心の中でため息を一つ。もっとも、うれしくないかといわれると――正直少し、うれしかった。


「っていうことで、今日は早く帰って来いってさ」
 移動中の車内で、千早に「社長指示」を伝える。助手席に座る千早の顔がほころんだのがわかった。
「ふふ。社長らしいわね」
「でも、私ですら半ば忘れてたことをよく覚えてるものね」
「そういうものじゃないかしら? 私だって今日が律子の誕生日だってことくらい、ちゃんと覚えていたわよ」
 確かに、千早の誕生日はちゃんと覚えている。社長の誕生日も……なるほど、そういうものか、と一人得心する。
「それは……その、ありがと」
「プレゼントも用意してあるのだけれど……せっかく社長がそういう場を用意しているなら、そのときに渡した方がいいわね」
「楽しみにしてるわ」
 これは、なんとしても仕事を早く終わらせないといけないみたいね……そっとアクセルを踏む足に、力を込めた。


「おはようございます、ディレクター」
「お、おはよう、律子ちゃん、千早ちゃん。今日もよろしく!」
「おはようございます。こちらこそ、よろしくおねがいします」
 局に入り、今日お世話になるディレクターに二人そろって頭を下げる。この歳になってちゃん付けは……と思うものの、私がアイドルだった頃からの付き合いで、この業界も向こうの方が遙かに長いので仕方がない。実際、一度ちゃん付けに文句を言ったら「俺から見たら二人ともひよっ子よ」と豪快に笑い飛ばされてしまった。実害もないし、言い返すこともできないので今はあきらめている。
「そうそう。律子ちゃん、誕生日おめでとう」
「あ、ありがとうございます。って、よく覚えてましたね」
 社長や千早だけならともかく、まさかこんなところでも声をかけられるなんて……さすがに驚きを禁じえない。
「そりゃ、天下の如月千早のプロデューサー殿の誕生日くらいはちゃんと押さえておかないと……なんて、冗談冗談。俺だって昔は二人のファンだったんだから、それくらい覚えてるよ」
「へぇ……そうだったんですか」
「あ、あれ? もしかして疑ってる? その目」
 調子のいいことを言うディレクターを軽くにらんでみたら、目に見えてあわてたようなそぶりを見せた。そんな様子がおかしくて、思わず吹き出してしまう。
「あははは。そんなことないですって。ありがとうございます」
「さすが律子。引退してもなおモテモテね」
「ちょっと、からかわないでよ千早……」
「さ。それじゃ今日もバシっといくかね。千早ちゃん、律子ちゃん、ヨロシク」
「はいっ」「はい」
 その一言で、ディレクター一同、現場の空気が切り替わる。私も、少し浮ついていた気持ちを改めて締めなおした。



「って、パーティーの予約って、ここですか?」
 幸いにして収録もスムーズに終わり、事務所に戻った私たち(それでも「遅い遅い」と謂われなき文句を言われたが)が連れて行かれた場所――だるい家の看板を見上げて、思わず目が丸くなる。
「ほら、たまにはこういう場所も、な」
「悪いとは言いませんけど……」
 別にコース料理とか、そういった物を期待していたわけではないけれど、さすがにこれは予想外だった。若干、複雑な心境ではある。そんな私の隣で、千早が小さく笑った気配がした。
「でも、懐かしいですね、とても」
 千早が微笑んで目を細める。確かにその佇まいはあの頃、私たちがまだアイドルとプロデューサーという関係だったあの頃と何も変わっていない。もっとも、その時の事務所はもっと大きな場所に移って、今はここにはないけれど。
「さ、ここで突っ立っていても始まらない、入るぞ」
 社長を先頭に、店に足を踏み入れる。記憶に残るそのままの佇まいで、店内は喧騒に包まれている。懐かしい声に案内され、店の奥に通された。
「律子は生でいいよな。千早はウーロン茶?」
「いえ、せっかくですから、私も生を」
「え? 千早が?」
「たまには、ね。一杯だけ」
「そういうことなら。じゃあ、とりあえず生中三つと、あと……」
 かしこまりました、と厨房に下がっていく店員の背中を、なんとなく眺める。
「考えてみたら、ここに夜来たのって初めてです」
「あれ? 二人ともそうだっけ?」
 私の言葉にうなずいた千早を見て、社長が意外そうな顔をした。
「ええ。お昼にランチを頂いたことは何度かありましたけど」
「そうか。俺は前の事務所のときに社長や小鳥さんとよく来てたんだけどなぁ」
「それは知ってます。二日酔いで死にそうな顔してた時もありましたね」
「あー……それは言わない約束ってことで。あ、ほらほら、ビールもきたし、乾杯するぞ乾杯」
 なんだか上手くごまかされたような気もするけど、ここでこれ以上こねる話でもないだろう。並んだジョッキに手を伸ばす。
「それじゃ、とりあえず」
 社長がジョッキを持ち上げて軽く傾ける。あわせて、私たちもジョッキをかかげた。
「乾杯!」「乾杯!」「乾杯!」
 キンッ、と涼しい音とともに、三つのジョッキが合わさる。早速口をつけている社長の飲みっぷりは、端から見ていても爽快なくらいだった。
「ふぅ……改めて、誕生日おめでとう、律子」
「ありがとうございます。改めて言われるとなんだか少しくすぐったいですね」
「あ、そうだ。これ、プレゼント。改めておめでとう」
「お、ありがと。開けていい?」
 千早がうなずいたのを確認して、包装紙を開ける。手元を覗き込んでいた社長が中身を見て小さくつぶやいた。
「お、腕時計か」
「ちょっと前に壊れたみたいな話をしてたでしょ。だから」
「うん。これはうれしい。ほんと、ありがとう」
「どういたしまして。いつもお世話になってるから、ね」
 どちらかというと私のほうがお世話になってる気も……なんて、多分それはお互い様、っていうやつだろう。いまさらそんなことを言うのも野暮ってやつだ、多分。
「それで、社長からはプレゼントはないんですか?」
「え? えっと……このパーティーがプレゼント……ってことで、一つ」
「本当は社長が飲みたかっただけ、何じゃないんですか?」
 珍しく、千早が食いついてきた。思わぬ方向からの口撃に、社長も苦笑いで答える他ないらしい。
「今日の千早はなかなか手厳しいな。もしかしてもう酔ってる?」
「さぁ? どうでしょう? あ、すいません。ウーロン茶一つ、お願いします」
「あはははは。じゃあ来年は三倍にしてプレゼントしてもらいましょう。あ、私は生中追加で」
「まったく、容赦ないな、うちの稼ぎ頭たちは。っと、俺も生中で」
 注文を聞いた店員の背中を眺めながら、不意に社長が小さく息をついた。
「こうやって、ずっと誕生日を祝えればいいな」
「それって、律子へのプロポーズ、ですか?」
 千早の爆弾発言に、社長と二人、思わず飲み物を吹き出しそうになった。
「なっ!」
「なんでそうなるんだよ。第一、律子と結婚なんかした日にゃ、毎日尻に敷かれそうで……」
「……随分と失礼な言い様ですね」
 にらみつけると、あわてて冗談だよ冗談、と社長が首を振る。この人は昔から、どこか一言多いところがある。
「でも、プロデューサーと律子なら付き合いも長いし、お似合いだと思うんですけど」
「それを言うなら、千早だって長いじゃないの」
「うふふ。それもそうね」
 半年くらい私のほうが付き合いは長いけど、もう何年も三人でやってきてるのだからその程度の差は誤差だろう。改めて思えば、随分と長い付き合いになったものだ。
「いやあ。もてる男はつらいなぁ」
 なんていう感慨も、社長の能天気な感想で吹き飛ぶ。
「大丈夫です。もててないですから」
「まったく、身も蓋もないな」
 そう苦笑いを浮かべながらも、どこか楽しそうにも見える。こうやって三人、肩の力を抜いて話をするのは久しぶりかもしれない。
「ま、冗談はさておき、これからも一緒に頑張っていきたいものだね」
「ですね」
「じゃあ次は、来年の千早の誕生日だな」
 何が「じゃあ」なんだかよくわからないけど、でもなるほど確かに次は千早の誕生日だ、なんていう思考は、もしかしたらそろそろアルコールが回ってきたのかもしれない。
「楽しみにしています」
「奇跡の歌姫、如月千早の誕生日なんだから、ここは一つ、ぱーっと誕生日公演でもぶち上げたいところね」
「うむ。そうなると明日からでも会場を探さないとな」
「ふふっ。最高のプレゼントかもしれません」
 気づいたら仕事の話になっていた。でも――

 そんな「日常」もまた、とても心地よかった。
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【2011/06/23 00:00】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

偶像

こちらはアイマス1時間SS参加作品です。
あらかじめご承知置きください。




「あこぎな商売ですよね」
「……いきなりなセリフだな」
 十八の娘の口から出る言葉としては、少々似つかわしくない言葉だろう。正直な所、口語的な言い回しではないと思う。でも、それが彼女――秋月律子、頭がよくて、ちょっと理屈っぽくて、それでも、世を騒がすトップアイドル――の口から出たなら、まぁ、ありえなくもないかなと思えてしまうのも、それはそれでどうなのだろうか。
「時々思うんですよ。私なんかがアイドルって、どうなんだろうなって」
「律子の場合、時々じゃなくてそれはしょっちゅうじゃないのか?」
 そもそも、プロデュースを始めたときからそうだった。こんな自分をプロデュースするなんて正気の沙汰じゃない、冗談も程々にしたほうがいい、他にいくらでも可愛い子はいる――自分がアイドル候補生だというのに、デビューすると言われた時にそんなことを並べ立てる候補生なんて、世の中捜しても早々いないだろう。
「……まぁ、確かにしょっちゅうかもしれませんけど……」
 そしてそれは、ある程度売れてきた今になっても変わらない。まるで発作のように、事あるごとにこのセリフを繰り返す。気持ちがわからないでもない。今日は、先日のオーディションで負けたばかりだ。大体こういう時の律子はネガティブスイッチが入ると相場が決まっている。負けたと言っても僅差、ほとんど審査員の気まぐれレベルで負けただけだというのに。
 自分を客観視できることは悪いことではない。でも、律子の場合は自分を過小評価しすぎる事が多い。正直そこは、プロデューサーとして歯がゆいことこの上ない。
「いいんだよ。律子はアイドルなんだから」
 律子の顔に、疑問符が浮かぶ。何を言ってるの? 無言で先を促す律子に、言葉を続ける。
「CDの売上を見ろ。オリコンで一桁順位に食い込んでくるレベルだ。ライブチケットの売れ行きを見ろ。一般販売は十分と持たない。それだけの人間が律子を支持してくれてるんだ」
「それは、まぁ……でもそれって、私たちの戦略が上手くいってるだけっていうか、騙してるっていうか……いつか化けの皮がはがれるんじゃないか、って……」
「律子は頭がいいけど、馬鹿だな」
「なっ!」
 馬鹿と聞いて、律子の頬に紅がさす。ちょっと言い過ぎたかな……と思いつつ、先を続けた。
「みんな、そんなことは承知の上なんだよ。みんな、アイドルの秋月律子に騙されたがってるんだよ」
「アイドルの、秋月律子……」
「本当の律子がどういう子なのかなんていう話は、本質的な話じゃない。無論、そういうことも気にされるけど、アイドルってのは結局の所偶像だ。アイドルとしての律子に求められるのは、その偶像を崩さず、どこまでもファンたちを騙し続けることだ。そうじゃないか?」
「それは……まぁ……」
 不承不承と言った風に、律子がうなずく。
「あこぎな商売だよ、実際。詐欺かもしれない。でも、そうやって築き上げた『秋月律子』は、偶像かもしれないけどファンにとっては実像だ。張りぼてかもしれないが、詐欺を働いた俺たちには最後まで詐欺を働きとおす義務がある」
「……なんだか、酷い話ですね」
 酷い、と言いながら律子の表情には深刻な色は感じられない。つられるように、俺も笑う。
「ああそうさ。酷い話だよ。俺たちは一流の詐欺師さ。さしずめ、夢と欲望を弄ぶ詐欺師、ってところか?」
「あはははは。確かに。でも、同じ詐欺師なら、教科書に載るくらいの詐欺師になりたいですね」
「詐欺師が教科書に載るかどうかは微妙な所だがな」
 確かに、と律子も笑う。そこに、「あこぎな商売ですよね」とこぼした少女の影はない。今回もまた吹っ切ってくれたようだ。
「んー。なんかすっきりしました」
「そうか。そりゃよかった」
「でも、もしかして一番の詐欺師って……プロデューサーなんじゃないですか?」
 いたずらっぽく律子が笑う。なるほど、それはそうかもしれない。でも、律子にそんなことを言われるってのは――
「そいつは、光栄だな」
 最高の勲章じゃないだろうか、そんな風に感じた自分が、いた。
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【2011/01/28 23:14】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)

不覚

こちらはアイマス1時間SS参加作品です。
あらかじめご承知置きください。




「合格は1番と6番、他の子は帰ってもらってもいいから」
 ……私の番号は、そこにはない。つまりは、不合格、ということだ。それまで主体的に関わってきたその空間から、一瞬にして切り捨てられる感覚――天国と地獄、なんていう陳腐なフレーズが、脳裏をよぎる。
「合格者との差は、わずか……勝てない勝負ではなかったのですが……」
「そうだな……」
 プロデューサーの顔にも、隠しきれない悔しさが滲んでいる。でも、例え紙一重であったとしても、負けは負け。勝者と敗者を分かつその一重は、あまりにも分厚い。
「……ここでこうしていてもしょうがない。事務所に戻ろう」
「……はい」



 オーディションの結果に関係なく、空には星が瞬いている。身を切る風が、まるで不合格を責め立てるようにも感じられる。
「……久しぶりだな」
「え?」
「こうやって、オーディションの後、まっすぐに事務所に帰るのは」
 そう言って、プロデューサーが自嘲気味に笑う。その笑いは、どこまでも苦い。
「そう、ですね」
 思えば、ここ最近オーディションで負けるということがなかった。勝って当たり前、そんな傲慢さ、慢心がなかっただろうか。ふと、自問自答してしまう。
「次は、合格しような」
「……はい」
 雨降って地固まる――いや、固める。この不合格を、決して無駄にはしない。改めて、心にそう、決めた。
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【2011/01/14 22:57】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

今年もまた、この日を

「もう、律子と出会ってから5回目の6月23日、か」
「うわ、もうそんなになるんでしたっけ」
「……なに、その反応……」
「深い意味はないですよ? 別に」
「なんか、一瞬顔しかめたようなきがするんだけど」
「気のせいですよ、気のせい」
「まぁ、いいけど……っと、気を取り直して。お誕生日おめでとう、俺のおかん」
「誰がおかんやねん!」
「ぐふぁっ! な、ナイスリバーブロー……」
「まったく……」
「とまぁ、小粋な冗談みたいな本当のことはとりあえず今はちょっと小脇においておいて、改めて、お誕生日おめでとう、律子」
「ありがとうございます。えへ、こうやって改めて面と向かって言われるとその、ちょっと恥ずかしいですね」
「大丈夫! そうやって恥ずかしがってる律子も最っ高にかわいいから! さすが俺の嫁!」
「なっ、なな、なっ! だ、だから……っ」
「……なんて。思えば二人で、随分と遠くまで来たな」
「どうしたんです? 急に深刻そうな顔になって」
「んー? いや、今年は色々ありそうだな、って、そう思ってな」
「今年だけじゃないですよ。去年も、その前も、色々ありました。と機っていうのは流れていくもので、世の中っていうのは常に変わり、移ろい行くもの、そうじゃないですか?」
「それは、そうだな。でも、きっと変わらないものも、ある」
「変わらないもの?」
「そう。俺の、律子への愛だ」
「……」
「あ、えっと、その、そんなまじまじ見つめられると、なんというか、ちょっと、うん」
「プロデューサーって、ほんっと、馬鹿ですよね」
「いやぁ。それほどでも」
「それほどでもありますよ。でも、そんな馬鹿なところも……」
「……ところも?」
「……なんでもないです! なんでも! ともかく、この新しい一年もまた、よろしくお願いしますよ!」
「お願いされなくても、お願いされるさ。改めて。ありがとう、そして生まれてきてくれてありがとう、律子」
【2010/06/23 00:00】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

素直に、なれない

このSSは、トリスケリオンPの企画、『一枚絵で書いてみm@ster』第5回目への参加作品です。
お題のイラストは、こちら
あらかじめご了承ください。





「それでね。そこのケーキ屋さん、イートインのコーナーもあるんだ。だから今度一緒にいこ? 千早ちゃん」
「春香、あんまり甘いものばっかり食べてると太るわよ?」
「うー。私だって別にのべつ幕なし甘いものばっかり食べてるわけじゃないもん。千早ちゃんの意地悪」
「そう? 最近体重計が怖いって言ってたの、誰だっけ?」
「う……そ、それは……」
「二人とも、そろそろ出るぞ」
「あ、はい! プロデューサーさん!」
「春香と千早さんって、ほんと仲がいいよね」
「アンタ、いい加減春香のこと呼び捨てにするの、やめた方がいいんじゃない?」
「えー? でも、春香も自分で『呼び捨てでいい』って言ってくれてるよ?」
「親しき仲にも礼儀あり、っていう言葉、知らないの?」
「んー。でこちゃんはいちいち細かすぎるの。春香本人がいいって言ってるんだから、ミキ的には呼び捨てでもいいって思うな」
「だーかーら! でこちゃん言うなって何度も言ってるでしょ!」
「あふぅ……ん? どしたの?」
「……何がよ」
「なんか、寂しそうな顔してたよ? あ、でこちゃんも千早さんと仲良くなりたいんだね」
「なっ!」
「前にもそんなこと言ってたもんね。まだ千早さんにアタックしてないの?」
「あ、アタックって、なな何馬鹿なこと言ってるのよっ!」
「あはっ。でこちゃんも素直になって千早さんに話しかければいいのに」
「だから! 違うって言ってるでしょ! でこちゃん言うなっ!」
「でこちゃん、顔真っ赤~」
「うるっっさいっっ!」

END
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【2010/05/30 20:04】 | SS(もどき含む) | トラックバック(1) | コメント(4)

揺れる想い

このSSは、ガルシアPの企画、『Kaleido/m@ster』(カレイドマスター)への参加作品です。
あらかじめご了承ください。




「わ、わわっ!」
 ……また転んだ。ダンスレッスン用の音楽だけが、スタジオに空しく流れている。これで一体、何回目だろう。床に座り込んでいる春香を見て、今日何度目かのため息をつく。
「春香、今日はダンスレッスンの仕上げのはずよ」
 いつものことと言えば確かにそうだけど、でも今日は、今日に関しては「いつものこと」と笑って済ませるわけにはいかない。今日でダンスレッスンは終わり、来週からは歌のレッスンに入っていく予定だというのに、ここでつまづいていては先に進むこともできない。
「えへへ。ゴメンね、千早ちゃん。もう一回、いいかな?」
 照れ笑いでごまかそうとする春香だけど、その笑いの裏にある事実を看過することはできなかった。
「どうして昨日より動きが悪いの?」
 そう、明らかにおかしい。昨日まで何度も繰り返してきたはずのレッスンで、それも昨日まで出来ていたはずのところで何度も引っかかる。いくら春香とはいえ、これくらいはこなせて当然のはずなのに……。
 問い詰めた私に、春香の口から答えは出ない。そんな態度がまた、私の神経を逆なでする。
「あなたにはプロ意識が足りないのよ!」
 ――いつもそうだ。こうやって春香にきつく当たって、すぐに後悔する。だったら、最初からもっと優しくすればいいのに……。
 お互い、顔を合わせることもできず、ただ空気だけが重くなっていく。その重さに耐えきれず、私はスタジオを後にした。無言の春香を一人、置いて。


 幸いというべきか、休憩所には誰もいなかった。頭を冷やそうと、スポーツドリンクを一本、購入する。取り出し口に落ちてくる音がやけに、大きく響いた気がした。
 わかっている。あんなきつい言い方をしなくてもいいのに……って。でも、春香の動きを見ていると、どうしてもプロとしての姿勢について違和感を……いや、でもパートナーなんだからもっと言いようが……頭の中で、相反する感情が渦巻いてどうしていいかわからなくなる。知らず、またため息が漏れていた。
「あ、いた! 千早さーん」
 思わぬ声に、顔を上げる。果たして、廊下の向こうから小走りで走ってきたのは美希だった。
「千早さん、今日はレッスン午前だけで、午後はフリーだよね?」
 どうしてここに美希が……? いぶかる私に頓着することもなく、隣にすとんと腰を下ろす。
「お昼食べに行こっ! ミキねー、千早さんの為に美味しいお蕎麦屋さん調べて来たの!」
 さらっと語られた「蕎麦屋」というフレーズにひっかかりを感じる。最近蕎麦が気になっているという話をしたのは、確か先日収録したトーク番組の中だけだったはずだ。オンエアは来週だから、その番組を美希が見たはずはない。知る人はほとんどいないはずのそのことを、どうして美希が……?
「美希……その話、誰から聞いたの? 私の今日のスケジュールは?」
 そうだ、そもそも美希が私の今日のスケジュールを知っていることもおかしい。勢い込んで尋ねる私に、美希は少し、驚いたようだった。
「え? 誰って……」
 もちろん、返ってくる名前は、彼女の名前以外、あり得ない。顛末を聞き、得心する。まったく、あの子は……。
「ごめん、美希! 蕎麦屋はまた今度に!」
「え? あ、ちょ、ちょっと、千早さん!」
 後ろから美希の困惑した声が聞こえる。でも、今の私には、申し訳ないけどそれにかまっている余裕はなかった。


 レッスン場に戻り、一番最初に目に入ったのは、床に手をついている彼女の姿だった。かすかに見える頬に光るそれは、大粒の汗、だろうか。
「明け方まで長電話なんて、ダメじゃない」
 多分、私の顔は険しかったと思う。顔を上げた春香の表情が強張る。
「今日はダンスレッスンだって知ってたのよね?」
 そういうスケジュールだとわかっていたはずなのに、どうして夜更かしなんか……そんな、自分の体調も管理できない春香は甘い。甘いと思う。でも――
「だって、美希が『千早さん、千早さん』って嬉しそうにしゃべるから……」
 なんだろう、私を見上げる春香の目は、少し潤んでいるように見えて――
「私だって……」
 千早ちゃんと……そんな声が、聞こえたような気がした。何だろう、胸の奥で――
「……今日の午後のオフ、なしだから」
「え?」
 胸に湧き上がった、得体のしれない感情を振り切るように少し語気を強める。
「今日中にダンスレッスン仕上げるの。四時から、レッスン再開よ」
 携帯取り出して、春香に突きつける。プロデューサーの『予約できた。OK、頑張れ』というメールを見て、彼女の顔にようやく、笑顔が戻る。
「そうだよね。へへ。私、頑張んなきゃ!」
「四時にはプロデューサーも来るわ。それまでは、自由時間よ」
 ポケットから鍵を一つ取り出して、春香に渡す。きょとんとした春香の顔が、なんだろう、少しだけかわいい。
「このフロアのミーティングルームB室、四時まで使えるわ」
 いまだ私の意図が理解できないのか、春香が小首をかしげる。
「仮眠しなさい。三時間でも眠れば、ずっと楽になるから」
「あ……うん!」
 鍵を受け取る春香と、一瞬指が触れあう。大したことじゃないはずなのに、なぜか少し、体温が上がった気がした。
「そ、それじゃあ、また後で」
 そんな自分の感情が妙に気恥しくって、春香に背を向ける。出て行こうとした私の足を止めたのは、ジャージの裾をつかんだ春香の手だった。
「えっとね、千早ちゃん……」
 春香に背を向けたまま、次に続く言葉を、待つ。耳元に、春香の気配を感じた。
「ごめんね、ありがとう。あと……大好きだよ」


原案:ガルシアP
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【2010/05/15 13:14】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(2)

特別でないただの一日

「お疲れ様、千早。納得いく出来になった?」
 CDの収録を終えた千早が出てきたのを見て、私も腰を上げる。もっとも、その顔に浮かんでいる満足そうな笑みを見る限り、答えは聞くまでもなさそうだ。
「ええ。おかげさまで。今回のアルバムもいい出来になると思うわ」
「またスタッフさんに無理言ったんじゃないでしょうね?」
 予定していた時間よりだいぶ押しての終了だ。最終的にいいものができたにしても、そこに至る道のりは平坦ではなかったことは想像に難くない。もっとも、そんなことは今に始まったことではないし、スタッフだってその辺のことは承知の上、のはずだ。
「そんなことは……ない……と、思う」
 なのに、私の言葉を真に受けたのか、千早の顔に影がさした。
「あははは。いいわよ。千早はそれができる立場なんだし、スタッフだってよっぽどのことをしない限りついてきてくれるから」
「それなら……いいんだけど……」
 曇ったまま表情を見ると、どうやら本気で心配しているらしい。軽い冗談のつもりなのに、こういう妙に真面目なところはユニットを組んでいた頃からあまり変わらない。
「もうちょっと自信持ちなさいよ。それに、何かあったら私が尻拭いするから、安心して」
「律子がそう言ってくれると……安心できるわね」
 ようやく千早の顔に笑顔が戻った。この笑顔を守るために自分はいるのかな、なんて漠然と思う。
「そっか。じゃあその信頼にはきちっと応えていかないと、ね。さてと。それじゃそろそろ事務所に戻りましょうか」
「そうね」
 ――私、秋月律子が千早をプロデュースし始めて、そろそろ一年になろうとしていた。



「ただ今戻りました」
「二人とも、お疲れさん。どうたった? ……は、愚問か」
 事務所に戻った私たちの顔を見た社長が、答える前から満足そうな顔で小さくうなずいた。プロデューサーとアイドル、という関係からの長い付き合いだ、私たちの表情を読むくらい、お手ものものだろう。
「はい、おかげさまで。一二〇パーセント、とは言いませんが、九九パーセントのものはできたかと」
「じゃあ、後は発売を待つのみ、か。プロモーションの方は、大丈夫かな?」
「はい、それはもちろん。ばっちり、売りだしてみせます」
 ここから先は、おもに私の仕事。千早の、そしてスタッフの努力の結晶を無にしないよう、頑張っていかなくてはいけない。
「で、二人はこの後何か予定があるのかな?」
「いえ、私は特に」
「私も、特には」
 首を振った私たちを見て、どういうわけか社長の顔に呆れたような表情が浮かぶ。
「ふぅ……やれやれ、二人とも予定なしか。じゃあ、ちょっと待ってくれ」
 わざとらしくため息なんかついて、携帯電話を取り出してどこかへと電話をかけ始めた。
「あ、いつもお世話様です。今からなんですけど、大丈夫ですかね? え? いやぁ、ほんといつもすいません。それじゃあ、今から行きますんで」
 何が始まるのか全く分からず、千早と二人、首をかしげる。ぱちん、と携帯をたたんだ社長が私たちを見た。なんだか、得意気な笑みをその顔に、張り付けて。
「さてと。それじゃ行こうか」
「え? どこにですか?」
「千早の誕生日会に決まってるじゃないか。行きつけの店に予約を取ってあったんだ」
 千早と二人、思わず顔を見合わせる。
「私の……」
「誕生日?」
 壁にかかっているカレンダーを、確認してみる。今日は……二月、二五日。
「おいおい。千早はともかく、律子まで忘れてたのか?」
「なんだかその言い方にちょっとした悪意を感じるんですけど……」
 少し眉が上がった千早を見て、社長が苦笑いを浮かべながら軽く首を振った。
「いやいや、そうは言っても千早はいつも自分の誕生日なんて忘れてたじゃないか」
「そ、それは……」
 思わず口ごもる千早をちらっと見て、今度は私の方へと矛先を向けてきた。
「それよりも律子、自分の担当アイドルの誕生日を忘れてるなんて、プロデューサー失格だぞ」
「う……そ、それは……」
 忘れていたわけではない。いや、千早の誕生日が二月二五日であるということはもちろん知っていたし、忘れていたわけではない。ただ、ここ数日CD収録が追い込みに入っていてすっかり頭の中からそのことが滑り落ちていただけであって、いや、でもそれを人は忘れていたというのだろうか……頭の中で、何故か必死に言い訳をしている自分がいた。
「し、社長、さすがにそれは言い過ぎでは……」
 慌ててとりなすように千早が言うのを見て、社長が破顔した。
「ははは。冗談だって。とまぁ、そんな話はそれくらいにして、ほら、さっさと出るぞ。もう時間も遅いんだから」
 自分はすっかり出支度を整えて、私たちを急きたてる。そんな姿を見ていると、一体誰の為のことなのかと、少し呆れたりも、しなくはない。
「……とか言いながら、実は社長が飲みたいだけ、なんじゃないんですか?」
「そ、そんなことないぞ?」
「社長は昔から何かにつけてそういうところがありましたから」
 私だけでなく千早からもそんな辛らつな言葉が飛ぶ。その辺は、社長の普段の……いや、以前からの行いが悪いから、というのはさすがに少し、気の毒だろうか。
「ち、千早まで……」
「あははははは。でも、今日に関しては社長の心遣いに感謝、ということで。もちろん、社長の奢り、ですよね」
「二人の出世払いで頼むよ」
 そういえば、三人でどこかに行くのは久しぶりかもしれない。忙しい日常と、社長の機転に、心の中で感謝しておく。
「あ、そうだ。改めて。千早、誕生日、おめでとう」
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【2010/02/25 22:02】 | SS(もどき含む) | トラックバック(0) | コメント(0)
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管理人:霧島義隆

霧島義隆

元765プロ所属、今は律子と一緒に独立してとあるデレマス事務所「律子ぺろぺろの会」代表。気付いたら個人でもS3、事務所もs3。他、アケマス・アイマス2・アイモバ・ミリマスでもアイドルマスターの称号を取ったので自称5冠。ただしミリマスは引退済み。
なんちゃってSS書き。色々こじらせてめんどくさいと言われがち。

口癖は #律子ぺろぺろ
危ないので石は投げないでください。

個人ID:57798220
事務所ID:6698

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